残業代は、時間の経過に伴い、毎月、2年前の支払期日の部分が時効消滅していきます。したがって、残業代を請求しようと思い立ったら、まず内容証明郵便を送付して時効の完成を止めることが大事です。内容証明の送付は、法律上、「催告」として時効の完成を阻止する効果があります。
しかし、催告による時効の完成猶予の効果は、暫定的なものであり、6か月間のみ有効です(民法150条1項)。しかも、催告を繰り返しても、再度の完成猶予の効果は生じません(同条2項)。すなわち、催告から6か月以内に、催告以外の完成猶予の措置を取らないまま経過すれば、完成猶予の効果は失われ、時効が完成してしまいます。
したがって、内容証明を送付した後は、送付したことで安心してしまわずに速やかに使用者との交渉を進め、訴訟提起に及ぶ必要性の有無を適時に判断する必要があります。
この点、判例は、催告に対して債務者が請求権の存否調査のために猶予を求めた場合には、何らかの回答があるまで6か月の期間は進行しないとしています(最判S43.2.9民集22巻2号122頁)。そこで、残業代の催告に対し、使用者が調査のために猶予を求めたという事実関係がある場合には、回答があった日から起算して6か月間は時効が完成しないと考える余地があります。
しかし、「猶予を求めた」といえるのか、といった事実の評価は微妙ですから、なるべくは催告から6か月以内に提訴するか否かを判断すべきであることに変わりはありません。