「職場にタイムカードはあるが手元にコピーがない」という方へ

タイムカードは、労働時間を立証するための証拠として最も典型的で有力なものです。しかし、せっかく職場にタイムカードはあっても、コピーを取ることができず、手元にコピーがないという状況の労働者は多いと思います。

そのような場合に「証拠がないから」と、残業代請求を諦める必要は全くありません。

 

使用者は、労働関係に関する重要な書類を3年間保管するよう法律で義務づけられています(労働基準法109条)。タイムカードも保管義務の対象となる書類に含まれます。

したがって、残業代請求を行う際に、使用者に対して保管しているタイムカードを開示するよう要求すればよいのです。労働者からタイムカードの開示を求められた場合に特段の事情なく開示を拒否する行為は不法行為にあたるとして使用者に慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります(医療法人大生会事件大地判H22.7.15労判1014号35頁)。この裁判例も指摘して弁護士から開示を要求すると、多くの会社は開示に応じます。

 

仮に開示に応じなくとも、概算で計算をして訴訟を提起し、裁判所に対して文書提出命令を申し立てるという方法もあります。そのような方法もあるため、提訴前には開示に応じなかった会社でも、訴訟になって代理人(弁護士)が就いた段階で開示に応じることが少なくありません。

 

したがって、手元にコピーがなくとも、職場にはタイムカードがあり、タイムカードを入手できれば労働時間を立証できる、という状況であれば、残業代請求のために有利な状況にあるといっても過言ではありません。簡単に諦めることなく、弁護士に相談していただきたいと思います。

 

なお、そうは言っても相手方が飽くまで開示に応じない場合のことを考えれば、たとえ数か月分だけでもコピーが手元にあった方がより有利であることは確かです。したがって、後日、残業代請求をすることが念頭をよぎったら、その月からでもコピーの確保(コピーが難しければ携帯で写真を撮ること)を心掛けたいところです。